○蛇籠屋敷 2階
柊夜が突然いなくなったので、慌てて追ってきた桜井と春日井。
桜井は、ビデオの映像を垣間見、ぎょっとして考え込んでいる。
「…今北産業とか言うべき?」
柊夜はヴィンツの一言を聞き、ゆっくり目を瞠ったまま、されるがままになっている。
身は委ねない。けれど、はねのけもしない。
「あ~・・・しゅうちゃんとせんせー、仲間はずれにしないでほしいなぁ(。˘•ε•˘。)
僕らだっているんだからさ。全員でしゅうちゃんのお願いに協力させてよ」
そう言って、レイネスはにっかりと笑う。
「……れい…ねす。」
柊夜はゆっくりと彼の名前を呼んで、瞳に映す。
それから徐々に、春日井も、桜井も、瞳に映していく。
桜井も微笑み、柊夜にペットボトルを差し出した。
「…まあ、そうだね。ここまできたら、君ももうお客さんだから
飲む?うちで作ったお茶だよ」
おずおずとペットボトルを受け取り、柊夜は困惑したように俯いた。
「……なんで。なんで、そんな。お前ら、俺にも陣にも、無関係なのに。
俺、お前らと同じイキモノじゃ、ないのに。」
「んー、そうだね。世の中には、縁って言うふしぎなものがあるんだよ。
同じ店に来たとか、同じものを見たとか、他人だとしてもね、ふとしたきっかけで仲良くなるものさ。
…それ、落ち着いたときにでも飲んでみなさい。美味しいと思う
で、美味しかったらおいしかったで、店主と客の縁が生まれるってワケ。
…うーん、うまく言えないね」と、桜井は笑う。
「病院でもさー、殺意の波動放って睨んでたの、しゅうちゃんでしょ。
あの時からエンってやつがあったんだよー多分!」
「……、えん。」
それは、まるで理解できていなさそうな発音だった。
ペットボトルのキャップを開け、おもむろに一口飲む。
喉が渇いていたのか、ごくごくと喉を鳴らし、ふぅっと息をつく。
「……ねむくなる味だな、これ。…まずくない。」
そして、少し力の抜けた目をした。緊張の糸が少し、解れたような。
「波動?とかテレビみたいなの、使ってねーけど、うん。見てた。
あんときはお前ら敵だって思ってた。」と、レイネスに答える。
「あんときは、ねぇ。今はどうなの?ね、ね、どーなの??」
「今。今……今?」
柊夜はレイネスをまじまじと見つめて、抱きしめていた手を放したヴィンツも、ちらりと見た。
「……よくわかんねぇ。」そして、ぷいと目を逸らす。
「(…よく事情はわからないけど随分デレ期を迎えたもんだなぁ)」
少し遅れてきた春日井は、ビデオテープの映像そのものは見ることができなかったが、
「いつか、あなたをむかえにいく」、その童女の声だけは、明確に聞き取ることができた。
それは、春日井が幼女に格別な愛好心を抱いているということもあるだろう。
けれど、その声はもっとどこか、心の深いところに刺さった、気がするのだ。
遠い昔に、明日も遊ぼうね、と約束した誰かのことを、思い出させるような。
「(…嫌なもん聞いちゃったなぁ)」
遠巻きにヴィンツらを見ながら、春日井は重苦しい気持ちになっていた。
「(……見れていたほうが、違うって、安心できたのかな)」
どうして柊夜は、片喰にもう一度会えたのに、自分はもう一度、あの子に会えなかったのだろうか。
後ろからもう一度声が聞こえてこないか、不安になりつつ、でも少しだけ期待してしまう。
耳をふさいでしまいたい衝動に駆られながらも、昨日の夜見納めたAVを思い出す。
けれどそのビデオも幼女モノだ。春日井は頭を抱える。
「(まあ、なんとか収まりそうでよかったよ、ほんとに)」
「……つんでれ?」
「あっはは!やっぱりかーわいい!!」
わざとらしく、平仮名のような発音で口にするヴィンツ。
レイネスは、柊夜の頭をわしゃわしゃと撫でる。
「うるせぇ黙れクソボケ殺す。」
早口でがっと言ってから、柊夜はゆっくりと立ち上がる。
「……時間無駄にした。とっとと陣探すぞ。……手ぇ貸せ。」
「そりゃあ勿論。…ところで、ほんとに鍵のありかには心当たりないの?
あとは、昔は誰がどこそこにいた、とか」
「……わりぃ、わかんねぇ。俺、入れられてた部屋しか知らねぇから、この家ほとんどわかんねぇ。」
「そっか、ありがと…って、ん?入れられてた部屋?
あなたがいた部屋があるの?」
「……ある。確か、下の部屋。階段はのぼってなかった、記憶あるから。」と、柊夜は躊躇いながらも答える。
「…そうなんだ。悪いね、いやなこと思い出させたでしょ」
「いい。」毅然と桜井を見る。
「それより陣探す方が、大事だから。」
「…そっか。それなら頑張らないとね…とはいえ、まだまだ部屋が多いねえ…」
「ああ。」柊夜は、ぐっと拳を握った。
「俺、この家にいい思い出はいっこもないけど、陣探すためなら、思い出す。
……あんたは俺よりあたまいいから、それでなんか、わかったりするんだろ?」
「…あー、うん、がんばってわかるよ。うん」
じっと桜井を見据えて言う柊夜。驚いて照れる桜井。
「じゃあ、頼む。」
柊夜の目からは、もう敵意は感じられない。
「ちょっと厳しいこと思い出させたりもするかもだけど、そこはごめんね」
「構わねぇ。こんなもん、陣にもらったもんに比べれば。」
青ざめている春日井には、ヴィンツが気が付いた。
「ん? ソマレさん? どうした?」
「……あ、ん、ううん……いや、ちょっと、ね
……声だけ聞こえちゃったから、色々想像してしまってね」
「……大丈夫じゃなそうだな」春日井に近づくヴィンツ。
「幼女にコーフンしたって顔じゃねえぞ? まずかったか? 落ち着けるか?」
「……うぅん、ちょっと…気持ちは落ち着かないな。
すぐに忘れられれば、大丈夫…かもしれないけど……」
「……そうか。……吐き出した方がいいなら、吐き出せよ?」
「話たければ話せばいい。話したくないなら話さなくていい。
……まあとりあえず、疲れた脳には甘いものか?」チョコを手渡すヴィンツ。
「……うん、ありがとう」
「みんな落ち着いてきたみたいだし、そろそろ行きますか?」
と、踏み出そうとした足の先に、紙切れが落ちている。
ヴィンツは紙を拾い上げる。その紙片は、食室で拾ったものによく似ていた。
「彼女に必要なものは、何よりも愛と信仰なのだそうだ。
俺の長年の疑問は、ついに解けた。それで、陣は……。
そうであるなら、やはり陣に声をかけておいてよかった。
きっと、此処へ来るだろう。11匹目になるために。
12匹目は、俺が務める。」
「経過は順調だ。もう6人も集まっている。
人を集めろと言われた時は困ったものだが、意外と簡単だった。
けれど誰も彼も怯えてばかりで、彼らの行いの素晴らしさには目もくれようとしない。
そういえば、書斎で見つけた不思議な本の中に、ちょうど良い呪文があった。
「真に想うものへの呪文」
……これがあれば、連中が彼らを心から嫌っているかどうか、わかるだろうか?」
話はばらばらで、まるで繋がりがないようにも思える。
「……彼女?」
それは食室で見つけたメモと同じく、東雲の筆跡で書かれている。
ヴィンツの知っている限り、東雲に女の影は無かった筈だ。彼女とは、何を指しているのだろう。
「彼女といえば…さっきの映像
最後、女の子の声しなかった?」
「確かにしたけど……まさかそれがシノノメ先輩の彼女? マードレさすがに冗談きついぜ……
(と言いつつ、その可能性を捨てきれない)」
「(横目で見られている気がする)」
「いやあ…でも恋にトシは関係ないし・・・・・・・・・・・・・・・(チラッ」
柊夜は眉間に皺を寄せてそれらを聞き、メモを不機嫌に睨んでいる。
「シノノメ先輩に恋人はいなかった筈…
…まあ確かに年齢は関係ない、けど……(ちらっ」
「………因みに、その、女の子?は……
どんな子だったとか、分からなかったんだよね?声だけかい?」
「映像には写ってなかったな……」
「声だけだけどぉ。そんなに興味があるん?」
「とてもある。いややましい意味じゃなくて。本当に興味あるんだけど。やましくはない」
「トテモアヤシイ」
「そこ強調すると言い訳っぽいからやめておけよ」
ヴィンツは柊夜を見る。訪ねてよいのか問いかけるように。
「…これに書いてある彼女だかのことなら、あれ……まずヒトじゃねぇよ。」
柊夜は、吐き捨てるように答えた。
「…ヒトじゃない。人でなしってことかな?」
>そまさん
「ヒトじゃない……今さら言われたくない台詞だな」
「ひとでなし?それよくわかんねーけど、えっとそうじゃなくて……
俺が初めて陣に会った時、女の声で陣としゃべってたあれは、ヒトじゃなかった。
俺もヒトじゃないけど、もっともっとヒトじゃなくて、
たくさんのヒトをぶっ殺して、俺も殺されかけたぐらい、でっかい化け物。
が、女の声で喋ってた。これに書いてある彼女って、そいつだろ。多分。
ヒトじゃねーのに、馬鹿なやつ。」
「たくさんの人…」
桜井は目をぱちぱちと瞬かせた。
「…そ、そうなんだ。そうなん・・・・・・・・・ん??
…なんだろう、ものすごく大事で、かつ大変すぎることに気づかされようとしてる気がする・・・・・・・・・・・」
「大変すぎること??」
「いや流石にそれは……」
ヴィンツは、何か気付いたらしい。唸るように呟く。
レイネスは、疑問符つきの表情で二人を見ている。
柊夜は皆を見渡し、慌てたように言った。
「え、な、なんだよ。何かわかったのか!?」
「……もしかして、さっきの映像って、ジャカゴムラ事件の、こと、なのか……?」
「・・・やっぱり、そこに行きつくよねえ・・・」
「・・・あ、そういうことネ・・・」
「…見事にどんどん不穏になっていくねぇ(。˘•ε•˘。)」
「それ僕の顔ぉ(。˘•ε•˘。)」
「……俺から話聞いた警察はそうだって言ってた。ジャカゴムラ事件の生き残り、なんだって。」
「ビンゴか……」
頭を抱えるヴィンツ。
「・・・・・・・・あー、はーー、
探偵やってて人知を超えた存在が関わってたってパターンははじめてだわ・・・ドラマかっつーの・・・」
柊夜は、その反応に驚いたらしい。
「信じるんだ、お前ら。警察は、でかい化け物が犯人だって言っても信じなかったけど。」
「そりゃあお前が嘘つくとは思えないし、こうも綺麗に繋がっちゃぁな」
「……。」 少し照れたように口をへの字に曲げる。
「……愛と信仰、って書いてあるじゃん。ここ。陣がそれをやったんだ。
だから俺は生き残りになった。……俺の力じゃねぇ。陣のおかげだ。
……でも…。」
小さく呟き、何かを考え込む柊夜。
「…どうしたの?」
「……俺さ、あん時ガキで、陣が言ってた『愛する』って言葉の意味わかんなかったんだ。
でかくなって知った。『愛する』って、好きって事なんだろ。
俺、ちょっと前までつるんでたダチがいるんだ。
そいつ、俺のこと好きって言ってくれて、一緒に遊んで。
そいついっつも、なんか、あったかい目してた。
でも、陣は『愛する』って言ってたけど……そんな目、してなかったよなぁ、って。」
「好きじゃないけど、愛するって言ったってことかねぇ・・・」
「そう、そうなんか、なんかそんな感じするんだ…!」
「・・・・・・・・・・・わかいなあ・・・・・」
レイネスの発言に食いつく柊夜に、若者を見守るおじさん目線になる桜井。
柊夜は首をかしげる。
「うん?」
「若いなぁ・・・・(うんうん」
「……やっぱり、お前は生き残るべきだよしゅうちゃん…」
ヴィンツは目頭を押さえている。
「えっなっなんだよ!?俺なんか変な事言ったかよ!?
……そっそれにっ、それにさっ!陣、『だから』って言ってたんだよ。
だからなんとかかんとかしてくれって、なんか、交換するみたいで。
きっとあれで、俺ともう二人も生き残ったんだろ!?」
「・・・・・んん?????
え、あれ?私の勘違い??? なに、君のほかにまだ二人いたの?」
「え? だからお前ら、一緒にこれたんだろ?あいつと。
生き残ってなかったら、あいつお前らといない。」
「一緒にって……スズカケさんか!?」
「(やっぱりかーい!って顔)」
「そう、あいつ。……死んじまったけど。せっかく陣が助けたのに、多分。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・あー、・・・そっか。・・・そうか。となると、」
「でもあと一人生きてる。
なのにあいつ、あんなのに殺されかけたのに彼女とか言って、意味わかんねぇ。」
「…間違ってたら訂正してね。つまり蛇籠村の生き残りは、君と、東雲さんと、鈴掛さん?」
「シノノメ……うん、確かそう名乗ってた。そう。そいつと、俺と、死んじゃったやつ。」
「シノノメせんせーかあ。そのー、彼女?
「あんなの」に惚れちゃったのかなあ。理由は知らんけど」
「・・・・・・・っはーーーーっ、あー、はー、マジかよ・・・」
桜井の声の調子が低くなる。
「これは・・・なんつーか、だーれも救われてないわけだ・・・
はーーーっ、マジか」
「ちょっと待て、ひとつ確認したい。
スズカケさん、ジャカゴムラ事件のことについて、何か言ってたか?」
「言ってたかは…ちょいとしばらく頭をフル回転してやらねーと思い出せねえが、
すぐ思い出せるのは、鈴掛さんもかがち谺出身ってぐらいだ
正しくは、鈴掛さんと、東雲と、陣さんか。その三人の故郷」
「……で、その三人のとこにあの黒いのが来て、
カタバミさんがシノノメ先輩とスズカケさんを逃がし、
カタバミさんが記憶を保てなくなり?」
「……うん、そう。陣は、バケモノを『愛する』って言ってから、
俺よりばかになっちまった。全部忘れちまう。
でも俺知ってる。助けてくれたせいだって。見てたから。
死んだ奴も、見てたはずなのに……怒るんだ。陣に。なんで忘れたんだって。」
「…寂しかったんだろうなあ…」
「……シノノメ先輩とスズカケさんも、事件のことは忘れたってことか。
……で、シノノメさんはよりによって、その事件を起こした存在に惚れてる、ってことか」
「まあ、とにかく、アレだな。早く探そう。
このままでは鈴掛さんも本当に救われないし報われない」
「……なぁ。俺、勉強苦手だからよくわかんねーんだけど…」
柊夜は、おもむろにメモを指差した。
「これとこれって、同じ意味なのか?」
柊夜が指差したのは『彼女』と『彼ら』。
「ん?ああいや、これは違う意味だ。
こっちが女性で、こっちが…そうだな、今の俺らみたいな複数だ」
「あ、わかった。
なら違う意味だ。あのバケモノ、でかいけど一匹だったし。」
「一匹で、でかいのが女の子の声だったんだな?」
「……というかじゃあ、彼らって誰?」
「んーと、女の声もしてたけど…ばーさんの声とか、よくわかんねー声とか、色々混ざってた。でも女っぽかった。」
「彼ら・・・彼女と似たような・・・ニンゲンとは、また違った何かな気がする」
「とりあえず女っぽい声が一人のでかいほう。それが多分『彼女』だろうな。
で、俺もソマレさんと同じことがわからん。『彼ら』って誰だ?」
「……ゆごすのたみ…?」
ふと思い出したように、柊夜は呟いた。
ユゴスの民。その言葉には、探索者たちも聞き覚えがある。
「ゆごすのたみ?」
「ゆごす・・・?」
「…民族?」
「あいつそういえば……陣のとこきて、聞いてた。
ゆごすのたみに会いたいって。どこにいるんだって。
ゆごすのたみって、なんなのかわかんねーんだけど。」
「ゆごす…カタバミさんがちらっと言ってたやつだな」
「……わりぃ。俺こんぐらいしかわかんねぇ。」
柊夜はしゅんと頭を下げた。
「いーや、そこまでいけば十分だ。…しかしなあ、ほんと何考えてるんだ東雲は」
「ただ、カタバミさんの持ってた情報によると、その『ゆごすのたみ』ってのはここにいて、
だからシノノメ先輩はここに来たってことだよな」
「だと、思う。ここだって陣、教えてたから。」
「だよなぁ…」ヴィンツ、メモを見つつ。
「で、メモを見る限り、シノノメ先輩はこの『彼ら』、つまり『ゆごすのたみ』に好意的、と」
「えっえっでも俺あの思いついただけだし、
『彼ら』がほんとに『ゆごすのたみ』かしらねーからな!?」
「いや…多分そうだと思うぞ…もうそうだってことにしてえわ・・・」
「お話が繋がりすぎてるしね・・・」
「…短絡的すぎたか、悪い。でも多分これが『ゆごすのたみ』っぽいとは思うな。
別の可能性も捨て去るべきじゃないのは確かなんだか
……待て、この『真に想うものへの呪文』って、
内容はさておき、ここの書斎にあるんだったら、まずくねえか」
「? なんでまずいんだ?」 首傾げ。
「シノノメ先輩が今いるのが、書斎だろ。
メモの内容的に、シノノメ先輩はこの呪文を使おうとしている
内容まではわかんねえけど、あまりいいことではないだろう」
「そ……そんなやばいのか、この、に……にうものへの呪文って……!」
ヴィンツの発言を聞き、柊夜は必死にメモを読み上げようとする。
そn表情は至って真剣だ。
「(にうもの)」
「やばいかも、って話だけどな。にうもの」
「…あいつ、時間がないっていってたな。それも関係してそうだが…」
「少なくとも世界が平和になる呪文ではないだろうしね。
警戒しておくに越したことはないだろう。にうものへの呪文」
「!! そうだよあいつ時間ないって言ってたじゃねぇか!!
早く陣探そうぜ、にうものへの呪文も多分やべぇし…!」
「そうだね、まだメモがぽろぽろ落ちてるかも知れないし」
「そうと決まれば動くとしますか。どうする?このまま一緒に動くか?」
「そうだな動くか。分割は…どうする?」
「俺、どっちでもいい。考えるのはまかせた。」
「分割するならするでいいんじゃないか。またさっきの班分けで」
「ジャンケンでもするか?」
レイネスが声を上げる。
「あのさあ」
「?」
「その、ゆごすのたみだっけ。がここにうろついてるんなら、
分かれて行動するのは危険なんじゃないかなあ」
「…あー・・・その線もあるな。たしかに」
「……話し合いが通じる相手とも限らないしなぁ」
「…行くかい?みんなで」
「皆でいこー!赤信号、皆で渡れば怖くないだ!」
「そうだな。そうと決まれば、行くか!」
「わかった。ならそうする。行くぞ。」
「うし、なら隣の部屋いくか?」
「(それに、しゅうちゃんがまたあんな状態になったら・・・皆がいた方が心強いだろうしね)」
○本の積まれた部屋
探索者たちはそのまま廊下を進み、続く部屋の戸を開けた。
そういえば、すっかり辺りが暗くなっている。もう夕方を過ぎて夜になっているのだろうか。
部屋へ入ってすぐのところに電灯のスイッチがある。
春日井がスイッチを入れると、部屋中に山ほど積み上げられた本が目につく。
それはまるで、片喰の部屋を彷彿とさせた。
ベッドや机の上にも、本がどさどさと置かれていて、足の踏み場も困るほどだ。
ヴィンツとレイネスは、互いに、ベッドの上にある、真っ黒な本を発見する。
墨でも浸したのかと思うほど真っ黒い本だ。
Das Buch von den unaussprechlichen Kulten
――「言い表せないカルトの本」を意味するそれは、只ならぬ威圧感を以てそこに在る。
「言い表せない、カルト…なんだこれ」
ドイツ語の対訳と照らし合わせ、ヴィンツは本を手に取った。
「何か見つけたか?」
「ドイツ語みたいだ。俺には読めないな。
読めそうなら呼んでほしい気もするが……時間大丈夫か?」
「あー…だったら持っていくか?それ。時間ありそうなら後で読むってのはどうだろう」
「その方がいいかもな…どっちみち俺は読めないから、マードレ任せた。……いやパードレ?」
「お好きな方でどーぞ。なんつーか色々と疲れたよ…久々にコッチが出た」
「ん。じゃあ今はパードレかな。ここには他にはなさそうだな…次行くか?」
第9回へ続く