○集合〜詰草書房 広場の像の前で待つ鈴掛。 10分前にはきっちりきていて、ちょっと落ち着かなさげに待っている。 「あ、いたいた。彼が鈴掛さんだよ。…鈴掛さーんお待たせしましたー!」 「どうも、こんにちは。皆さんが、助手さんですか?」 フラペチーノ片手に登場するヴィンツ。 「おはよーございまーす。  あ、オハツニオメニカカリマス、ってね。助手のヴィンチェンツォです。  ヴィンツって呼んでください」 「そうです助手でーす。レイn・・・レオンって言うんだ!  鈴掛さん・・・だっけ?ヨロシクね!」 「(偽名まで使っちゃって)助手になってからまだ日は浅いですが、皆優秀で信頼できる人たちですよ。」 「こんにちは、春日井です(ふつうそうな人だ・・・)」 柔和に微笑みながら見回す鈴掛。 「はじめまして、皆さん。よろしくお願いします。鈴掛と言います。  こんなに大所帯だとは思いませんでした。最近の探偵は助手さんがたくさんいるんですね。」 鈴掛は、尊敬した目で桜井を見る。 「というより、偶然探偵見習がここに集まってきた形ですね。  皆能力は高いですし、将来はいい探偵になってくれるかと(まあみんな本業あるけどネ☆)」 「成程。桜井さんの見込んだ方なら皆さん頼りになりますね。今日はどうぞよろしくお願いします。」 ここまで桜井が築き上げた好感度は高いようだ。 少し緊張した面持ちになりつつ、鈴掛は道を先導する。 「……それでは、早速になってしまいますが向かいましょう、か。」 「…そうですね。行きましょう。…ああでも固い表情はダメですよー?ほーらリラックス。  なにも殴り込みに行くわけじゃないから、ね?相手もケンカ腰になっちゃう」 「っわ。す、すみません…そうですね…」 肩をぽんぽんと叩かれ、驚く鈴掛。 緊張は解けないものの、リラックスを心がけている。 「そーですそーです、りらっくすりらっくすー」 チョコレートを差し出すヴィンツ。 「ありがとうございます。しまった、今日は返せる物もってないな…」 笑顔でチョコレートを受け取る。 「…そうですね。僕も喧嘩しに行きたい訳ではないので  ……少し口数が少ないかもしれませんが、皆さんにお任せしても良いでしょうか?」 「もちろん。とにかく無理はしないこと。ね?」 ぎこちないながら微笑む鈴掛。 「カチコミ・・・(小声)」 「カチコミだあ☆(小声)」 「あっでも暴力沙汰になりそうだったらその時は皆さんお願いします(小声)」 「僕にまっかせておいてよ〜」 『詰草書房』まではそれほど距離はないものの、入り組んだ細い道や裏通りを通っていく。 「(うわっ服が汚れるじゃん・・・)」 レイネスは少し嫌な顔をしつつも、細い道を着いていく。 平屋造りの書店が、ビルの雑居する通りにぽつんと建っている。 窓硝子は新聞紙や段ボール等でふさがれていますが、『詰草書房』のプリントがある。 営業中なのか心配になるほど薄暗いが、ガラスの押し戸には鍵はかかっていない。 店内の様子を覗き見ることができ、蛍光灯の明りがあるので人は居そうだが、桜井が戸をノックしても、返事はなかった。 「あれ、留守かなあ」 「開いてるんじゃないのか?」ヴィンツは戸を押し開ける。 「あら」 古本屋独特の匂いがする。 本は乱雑に棚に突っ込まれたり並べられたりしているが、古いものから新しめのもの、 雑誌漫画文庫文芸問わず雑多に、おおまかにジャンルを分けられているようだ。 奥のほうがレジになっているようで、人影が見える。 ヴィンツは二、三歩入って適当に本を見繕い、レジに持っていく。 「(あらま ちゃんと人いるっぽいね)」 「…おういらっしゃ…げっ!?」 レジにいた青年は、驚いた目でヴィンツを見た。 「(げっ??)」後ろから覗き見る桜井。 「???」しれっとした顔で青年を見つめる変装中のレイネス。 「うわっ」と、露骨に顔を顰める春日井。 青年は、まぎれもなく、3人を襲撃した当事者だ。 「…あー店員さん、ついでに「応急手当のやり方」みたいな本があったら買いたいんだが?」 笑顔のまま露骨に嫌味を言うヴィンツ。 「おっ……お前らどうしてここに……次見かけたら殺すっつったろうが  ……えっ待てどうやって嗅ぎつけた……てかそんな本ねぇし……」 青年は前のようなドスを効かせようと必死だが、うろたえてしまってうまくいかない。 「…あのーすみません、ちょっといいですか?」と後ろから声をかける桜井。 「(ぷっふーくすくす)」 「ッな……なんだよ……」 ばっと片腕を伸ばし、青年は桜井を睨みつける。レジの奥を塞ぐように、伸ばした腕。 「今って あなた一人ですか?」 「……見りゃわかるだろうが。」 「ああ言い方が悪かったですね。あなたが店長さんですか?」 「て、店長…?だっけか…?わ、わかんねぇけどここには俺しかいねぇつってんだろ!!!」 「…店長、だっけ?本来なら店長以外に誰かいるんですね?  このお店に詳しいかたに会いたいのです。そのかたをお出し願えませんか?」 「ざっけんな!!!ぜってぇ出さねぇよブッ殺すぞ!?」 吠える青年。 しかし、その言葉は暗に、誰か別の人間がいることを示している。 「出さねえってことは誰かいるんだな」 「(いるはいるんだねやっぱり…)」 「ッ!い…いねぇっての!!いねぇったらいねぇよテメェもっぺんぶちのめされてぇか!?」 「もっぺんってなんですか。彼を殴ったことでもあるんですか?  あと顔真っ赤だけど空調大丈夫??」 「まーまー。俺たちはお前ら?に危害加えに来たわけじゃないからな。  個人的に殴られたのには謝罪の一言ぐらい欲しいところではあるが」 「聞いただけで慌てすぎだよーお兄さん」 「るっせぇななんだよさっきからクウチョーとかわけわかんねぇことばっか!!!  あ!?うるっせぇな外人野郎!!テメェがあいつの事嗅ぎまわるからだろーがインガオーホーだろ!?」 「…それはとりあえず置いといてだ」 ヴィンツの表情が一瞬曇ったように見えたが、気のせいだったようだ。 「とりあえず落ち着いてくれ。  お前が何の目的があって殴りかかってきたのか、誰かを守ろうとしてるのか、  わからないことには俺たちもどうしようもないんだ」 煽りあい罵り合いになりつつあるところへ、部屋の奥から声が割り込む。 「しゅうやー? 客でも来てるのか? しゅうちゃーーん??」 非常に能天気そうな男の声だ。 「−−−−−−!!!」 柊夜(しゅうや)と呼ばれた青年は大慌て。 「ばってめっおまっクソボケてめぇざけんな一生黙ってろクソボケがぁ!!!」 「人に向かってクソボケだなんてアナタって人はもう」 「・・・誰もいないって言ってなかったっけ?」 鈴掛はその声にはぴんと来ているようだ。探索者たちも確信する。 さっきの男の声は、きっと片喰のものだと。 「…陣…!」 鈴掛は驚きつつ少し怯む。 「……やっぱりここにはいるんだね、あいつが。」 「……あんたらなんなんだよ、なんでそんなあいつに会いたがるんだよ……クソが……」 柊夜は頭を抱えて、弱弱しく涙目で睨む。 「逆にどうしてそんなに会わせてくれないのさー」 「俺たちの目的はシノノメ先輩を探すことだし、ジンさんとやらに危害を加えるつもりは無いんだがな」 「だってそんなの……ああ、くそ、もういいよめんどくせぇクソボケが…  …会わしゃいいんだろ会わしゃ!…ちょっとそこで待ってろぜってぇ動くなよ。」 そう行って彼はカウンター奥の戸棚に向かう。 「(あの子たまにいるツンデレってやつかな…)」 柊夜はやがて何かを見つけて持ってきた。 それは小学生の女の子が使っていそうな、かわいらしいプロフィール帳。 「……これ書け。そしたら連れてってやる。」 憮然とした顔で、ひとりに一枚ずつ手渡す柊夜。 「……るせぇな俺が買ったんじゃねーからな!?  あいつがこれいつも使ってるから仕方ねーだろ!!」 「…ああ、あの人のものなんだね。わかりました。…ちょっとこのカウンター借りますねー」 「(しゅうくんは可愛いもの好き・・・と)」 「…わかった(随分かわいらしい趣味の人だなぁ)」 「何も言ってないじゃーん☆ 通行許可書みたいだね。どれどれ」 プロフィール帳の末文にはこうある。「かきおわったら 片喰 まで」 「かけたけど、これはあなたに渡せばいいの?」 「…お前はカタバミさんではないよな?兄弟とかじゃないよな?」 「…あいつに直接渡せ。その方があいつには多分、いいから。」 柊夜は、少し目を伏せる。 「あいつが俺の兄弟でたまるか。書けたんならついてこいよ……仕方ねぇから会わせてやる。  いいか余計な事すんじゃねーぞ。ふざけた真似したらブッ殺すからな!?」 「わかってるって。流石に二回も殴られたくはねえよ」 ヴィンツはチョコレートを差し出すが、柊夜は甘いものは好まないようだ。 「いらねぇ。俺、これ食えないから。返す。」  ○片喰の地下室 レジカウンター奥の扉が、そのまま地下室への階段になっている。 薄暗い階段を下りれば、紙とインクと、アセチレンの匂いに出迎えられる。 天井までびっしりと、うず高く積み上げられた本、本、本――。 ランプの灯りに揺らされるそれらの影は、まるで蠢く怪物のようにも見える。 所々崩れ落ちそうな本の谷の奥からは、さらさらと、何かを書きつける音がする。 この異様な光景に圧倒されながらも、探索者たちは促されるまま、柊夜の後に続いて進む。 やがて彼らを出迎えたのは、いかにも温厚そうな、一人の紳士だ。 「やあ、どうも。狭いところで悪いね。」柔和に微笑み、彼は書きつけていた日記を閉じた。 世間話を続けようとして、圧倒されるヴィンツ。 柊夜は片喰に「客。そっちのスジの」と一言言って、つんとそっぽを向いた。 「いえいえ。すごい所蔵量ですね…ああそうだ、これ」とプロフィール帳を渡す桜井。ついでに名刺も添えている。 「有難う。君は…そう、桜井 飛鳥か。良い名前だな。」片喰は柔らかく微笑んで受け取る。 「ありがとう。あなたも素敵な名ですね」 積み本の影からプロフィール帳のファイルを取り出し、ぱちんと納める。 中身はそこそこ詰まっているようだ。 「そうかな?有難う。今日はどうやら良い出会いができたみたいだな。」 「…初めまして、ヴィンチェンツォと申します。ヴィンツと呼んでください」 冷や汗をかきつつ、プロフィール帳を渡すヴィンツ。 「…貴方がこれを?」 「ヴィンツェンツォ、か。イタリアから来たのかな。日本にようこそ。」 ヴィンツのプロフィールも、ファイルへ納めた。 「ああ。趣味なんだ。誰かとの出会いを手元に残しておきたくてね。」 柊夜はそれを聞いて、少し表情を暗くする。 「(名前バレるけどいっか〜)はいこれ。   レオンって言ったりレイネスって言ったりするんだ!どっちが本名か当ててみてね☆彡」 「レオンにレイネス。ダミーが混ざっているのか。成程面白いな。  俺には二人とも初めましてだという事しかわからないがね。」 微笑んでレイネスのプロフィールも納める片喰。 「えぇと、はじめまして……僕もこれを。ちょっと線が歪になってしまったけれど」 そっと目を逸らすヴィンツ。 「春日井 染。初めまして…はは、成程。殴られでもしたのかな?  君のような性癖の人間の著書はなかなか面白いんだ、ここにも多くある。」 くすっと笑いながらプロフィールを納める片喰。 春日井は身を乗り出したが、ヴィンツに押し込まれた。 そして最後に、鈴掛が無言でプロフィール帳を渡したが、 片喰は同じように、初めましてのあいさつをするだけだった。 「…つかぬことをお聞きしますが、あなたのプロフィールは私たちに見せてくれないのですか?」 「俺かい? 俺など知っても大して面白みはないだろうし…  人間誰しも、自分の事は自分が一番わからないものだろう? 俺はどうもこれを埋めるのが苦手でね。」 「それでも、あなたばかりが知るのってずるいじゃないですか。  私たちももっと知りたいのです。あなたを。」 「ふふ、じゃあ探り当ててもらうのはどうだろう。  その方が面白みがあるだろう?この山の中から一冊を探し出会うようにね。」 レイネスも、ヴィンツも、片喰をじっと見ていると、不安な気持ちになった。 この人の中身はひどく空虚だと感じ、彼の心の芯を読み取ることができず、恐怖感に駆られる。 レイネスは、陣の瞳が、ほかの人間とはずいぶん違っていることに気付いたが、 何が違っているのかはいまいち掴みきれない。 じっと見ていると、胸がざわざわとする。 「(・・・変なの)」 「探り当てる…面白そうですが、それにはあなたに色々と質問しなくては。たとえば…」と、桜井はちらりと鈴掛の様子をみる。 「……やはりそうか。」と拳を握る鈴掛。 「そうだろうとも。君はあの日からもう、僕の友人などではない。  そもそも最初からそうではなかった。……今も変わらずそうなんだろう?」 「……さぁ、どうだったかな。」 表情を変えないまま、片喰はとぼける。 「……やはり、変わっていなかったか。」 鈴掛はさらに拳を握りしめて、そのまま押し黙る。 ヴィンツには、片喰が嘘をついているのか、真実を話しているのかわからない。 そもそも彼の「本心」があるのかすらわからない。 そんな人間が、果たして存在するか? 片喰は、話は終わりかな、程度の軽さで、プロフィール帳を捲る。 目の前に憤っている鈴掛がいるのに、だ。 柊夜はひたすら皆と片喰のやりとりを、憮然と見ていた。 「しかしこの部屋は…」 「…陣さん、でよろしいでしょうか。あなたはいつもここにいるのですか?」 「ああ。ここは俺の巣だからね。薄暗くて良い巣だろう?」 桜井の問いかけに、冗談めかして答える片喰。 「ええ。とても。うちのバーの参考にしたいところです。  …ということは、普段もここでお客様を迎えているということですよね?」 「ここまではなかなか迎えないよ。大体の客は上で事が足りてね、  ここまで来るのはよほどの物好きだ。…そう、君らのようにね。」 「へえ…。それにしては、バインダーを作れるほどにプロフィールが集まっているのですね。  …今までどんな人が来たのですか?たとえば…医師とか?」 春日井は、本棚を見渡す。 『そういった』趣旨の本もたくさん置かれているが、目につくのは、神話や宗教にかかわってるような本だ。 資料集なのか、バインダーもたくさん置かれている。 本棚には、本以外にもさまざまなものが置かれている。小瓶に入った酒のようなものや、 ……缶だろうか? 穴が3つばかり開いているバケツのような缶だ。 「…?こちらは?」ヴィンツは、缶を指して質問した。 「さてね、なんだろうな。  この部屋には俺にもよくわからない珍妙なものがたくさんあるんだ。面白いだろう?」 「…前にどなたかここに住んでいらっしゃったということですか?」 「さぁねぇ、どうだったか……」 片喰は薄く笑み、はぐらかしながらプロフィール帳を見る。頬杖をつきつつ。 「…あ、そうだ。陣さん、ここの写真を撮らせていただいてもよろしいでしょうか?」 「写真?そんなもの何にするんだ?」 「ほら、バーをやってますし、内装の参考にしたいのですよ。よろしいですか?」 「成程?構わないさ、本の中身を盗むような泥棒でもないだろう君達は。」 「ところで片喰さん、東雲雪崩さんという方をご存じないでしょうか?」 「シノノメ、ナダレ……少し待ってもらえるかな。」ヴィンツの質問に、片喰はプロフィール帳をたぐる。 「(友達だって話だったけどやっぱり見るんだな…)」 そしてプロフィール帳から東雲のものを見つけると、書かれていた日付を見て日記を開く。 その日の記述を読む片喰。 「(医師の来客にはぐらかしたり、東雲さんの名前をわざわざ調べたり…)ありがとうございます」 桜井は、室内を撮るついでに、片喰の姿もカメラに収めた。 「……ああ、そうだな。確かにここへ来た。そして俺に会っていった。  彼は俺に聞きたい事があったようだ。それを聞くと満足したのかかがち谺に行ったよ。  それからは、会っていないな。」 「それはいつのことでしょうか? どんな話を?」 「三月ばかり前だな。」 日記を読みながら、片喰は答える。 「かがち谺ですか。そこはどのようなところなのでしょうか?」 「かがち谺か。あそこは……」 少し間があってから、片喰は柔らかく笑んだ。 「良いところだよ。とても。」 「差支えなければ何を聞いたのか教えて頂いても? 俺たち実は彼を探していて」 「彼はユゴスの民について聞きにきたんだよ。」 「ユゴスの…民?」 「ん?君達も興味があるのか。ユゴスの民というのは」 柊夜が慌てたように割って入った。 「もういいだろ!!お前らいい加減帰れ!!ずるずるいすぎなんだよ!!」 「…それもそうか、ありがとうございます。  こちらよろしければ。持ち合わせで申し訳ないですが」 チョコレートを差し出すヴィンツ。片喰は喜んで受け取った。 「有難う。甘いものには目がなくてね。この国より君の国のものが好きなくらいだ。」 「……そうですか。次回は何か取り寄せておきます」 「ん?陣さんに構ってもらえなくて寂しかった?」柊夜の頭をうりうりと撫でる桜井。 「ちげーっての!!てかてめ何写真撮ってんだよふざけんな撮んじゃねーよ!!」 「(なかよしだ)」 「えー?そういえば、君って陣さんとどういう関係なの?弟子?」 「なんでもいいだろーがそんなん!いいからほら帰れよっ!」 「ええー、君ともお話ししたかったんだけどなあ。…ああ陣さん、またこちらに遊びに来てもよろしいでしょうか?」 「いつでも。君達みたいな物好きは大歓迎さ。それに…そうだな。」 頬杖をつきなおして微笑む片喰。 「遊びに行く、のも悪くないかもしれないな。君達は、かがち谺へ行くのかい?」 「・・・・・・。ええ、もちろん。」 「シノノメ先輩がいるようなので」 「そうか。なら俺も連れていってくれないかな。」 驚く柊夜を意にも介さず、片喰はにこっと笑む。 「前から一度行ってみたかったんだ。良いところだからね。」 「って、行ったことないのですか?!」 「ああ。でも良いところだというのはよく知っているよ。だから行ってみたいのさ。」 その発言に、今まで以上の剣幕で怒る柊夜。 「ふざけんな!!!!テメェはぜってぇ行くな、行くなったら行くな!!!」 「何故だ?友人達と遊びに行くぐらい良いじゃないか。」  焦点のずれた返事に、柊夜は大声を上げる。 「ッ……うるせぇななんでも、なんでもだよあそこには行っちゃ駄目なんだよ!!」 「そういえばお前が片喰さんを外に出したくない理由はなんなんだ?」 「しゅうちゃん?…行ってほしくないの?」 「少なくとも人を殴る程度の理由はあるんだろうし、教えて欲しいもんだがな」 話しかけられ桜井やヴィンツの方を向くも、「ッ……」と片喰に目をやり、 「……うるせぇ。テメェらには関係ねぇ…。」と低い声を返す。 「関係なくない。なんでお前が片喰さんを外に出したくないのか分からないと俺たちは判断もできない  ……煽ったのは謝るから」 頭を下げたヴィンツに、やや落ち着きを取り戻した柊夜。 「……別に、何もわけがねぇわけじゃ、ねぇ。  あんた今んとこ何もあいつにしねーから……殴ったのは、その、悪かったなとは思ってるし。  でも……。」 ちら、と片喰を見る。 「……今は、言えねぇ。」 「……そうか。まあ今後とも殴られなきゃ殴るつもりはないよ。言えないのは…」 少し考え、「少しぐらい秘密があるほうが人間色気が出るだろ?」ヴィンツはにっこり笑んだ。 「……お前、聞きたいのか聞きたくねーのかどっちなんだよ。わけわかんねー…。」 「今はってんならいつかを待つってだけの話だよ」 呆れ返りつつも、柊夜に敵意は見られなくなっている。 「…キミも、一緒に来るかい?陣さんと一緒に」 「……当然。」 ぐっと拳を握る柊夜。 「いいかクソボケ、どうしても行くってんなら俺もついてくからな!  それが条件だ!いいか絶対連れてけじゃねぇとブッ殺す!!」 「こうなら連れてくしかねえな。道中でスルメでも買ってやるか?」 「するめ。あんま食ったことねぇ。くれんなら食う。」 「あはは。君ともいずれお話しできそうで嬉しいよ。…陣さん、それでは早速明日とかどうでしょう?」 「いつでも構わないさ、ここは気分で開けたり閉めたりするからな。」とわらう片喰。 「…鈴掛さん、いいですか?」 鈴掛は、じろりと片喰を見る。 「……元々行くつもりではあったけれど…  僕も行くよ。気は進まないけど、東雲を連れ戻さなきゃ。  …君は彼を連れ戻そうなんて気は、さらさら起きないのだろうがね。  明日ですね。昼からでもいいなら空いてます。待たせてしまう事になるけど、いいですか?」 「大丈夫。あなたがいないと始まりませんから」 「…だと、いいのですが。」苦笑する鈴掛。 「分かったスルメ買っとくな。明日…うん、休みだ。皆もそれでいいか?」 「・・・えっああうんモチロンカマワナイヨ(慌てて本の背表紙から目を離す)」 「ふわぁぃ・・・あーうん、大丈夫だよ!(爽やかスマイル)」 片喰は、本を見つめていた春日井に向かって、微笑んだ。 「良い出会いがあったようでよかったよ。……それとも出会いがなく幸運だった、かな?」 「(いっみしーん)」  桜井は柊夜と連絡先を交換する。 「なんかある時は電話がいい。メールめんどくせぇ。」 「はいはい。ちゃんと出てね?」 「じゃあまた明日なー」 第5回へ続く